
| 二 |
宮中の童女の中で最も成人して鬢削ぎになる姿を切望されていた霞は、
その姿を披露する事も無く、美しい髪を全て落とし、尼姑となった。
悲しいことに、彼女の美しさは出家しても変わる事はなかった。
そして不思議な事に、凌牙の死後、彼女を苦しめていた吐血や咳、熱などの病の苦しみは
全くと言っていいほど姿を消した。
不思議がる彼女の兄の朝貫に対して彼女は何時も穏やかそうにこう言うのだった。
「きっと…。凌さまがあの世で宮の病の鬼と戦って下さってるの。…きっとそう」
しかし表向きの病の苦しみは無くなったが、蝕んでいた病に彼女が最期まで打ち勝つ事は出来なかった。
病に侵されても死に急がず、残された時間を懸命に生きた霞ノ宮泰子、永眠。
あと数日で十八歳だった。
直前。最期まで死に目を看取ろうとし、悲しみに沈む朝貫に向けて聖女の如く微笑んで云った。
「兄さま、悲しまないで。…宮はね、凌さまに会いに行くだけなの」
彼女の死に化粧は絵にも描けない程美しかったらしい。
更にその後、一族の事、鬼の事を全て知った大納言の朝貫は、
宮中の書記係に命じ自分の妹と一族のある男の出来事を説話として記させた。
それから十数年後の1047年にその一族が朱点を討ち倒した事を彼は人伝に聞き、
人としての一族の存在が安らかなるよう祈りながら、その説話を書庫の奥に封印した。
しかし、記録として残す目的だけだった為のそれが以降、外の日の目を見る事は無く、
若い鬼もどきの男と貴族の娘の伝説は、長い歴史の渦の中に泡沫として消えた。