
| 三 |
更にそれを成し遂げた呪われし一族の者達が姿を消し、数年の時が流れた。
恐らく時は1050年前後、時の帝が後朱雀から後冷泉と移り変わった頃。
彼岸の折、小さい墓石の前でこれも又小さいもみじ手を合わせている童が居た。
見た目、字を書く事をようやっと習ったような年頃だった。
その子供は、その姿勢のまま暫くの間うずくまって居たが、
後ろからやって来た大人の声で我にかえった。
「…ようお祈りしたか?」
「うん。」
そのまま顔だけ後ろに向けて頷いたかと思うと、再びそれを元に戻して目を閉じ、
もう一度念じた。
「今度。ねぇ、いつ来る?」
「はは。何やお前…墓が好きか?」
一遍その小さい頭を捻った。
「うーん、"好き"とかと違うて…何やろ。だいじ?」
そう返事すると、童は立ち上がった。
男は、自分の方にやって来たそれの小さい頭に手を置いた。
相変わらず墓石の方を見詰めて居た。
「大事か…まぁそうか知れんな。お前ンほんまの父ちゃん母ちゃん、爺ちゃん婆ちゃんやらが
こん中、ようけ眠ってはるんやからな。こん人等が居らんかったらな、若しかするとお前も生まれて
来れへんかったかも分からん」
「うん。ね、おとうちゃん、聞いて。なぁ、さっきな?」
語りかけられた男は、今の父親であろうか。
「は?さっき?」
「お墓が」
そう言って頷くと、子供はその手で若干墓石に触れた。
「墓がどしたんか?」
その童の表情は何故か笑みに変わった。
「うん。さっきな、何かな、お墓が『生きろ』って言うてくれてん」
それを聞いて、男は笑いながら首を傾げ、その子に合わせて腰を落とした。
「あぁ?お前、もうこん歳で空耳とか聞えるんか。…ハハ、『生きろ』やて?気の所為やソレ。違う違う」
「でもな。ほんま聞こえてん、さっき」
そういって我をはり続ける童の手を優しく取った。
「あー、まぁ…時々は言うてはるんかもわからんけど、な。お前が聞くんは早い。ホラ、行こか」
そう言うと男は、童も握り返して来た手を引いて桜恋いの募る並木の路の中へゆっくり向かい始めた。
「…そうなんかなぁ…。」
手を引かれて数歩進んだところで、童は一旦振り返って墓の方に再び顔を向けた。
そのあどけないながらも真っ直ぐな眼差しは一瞬、かつての誰かの面影を残している様な気がした。
「また、来るね!」
桜花■ 散りぬる風のなごりには
水なき空に波ぞ立ちける