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【3】


その2


朱点童子打倒後間も無い1047年11月の暮れ、秋晴れの日。


「ご先祖はん。お参り遅うなってホンマすんません。ようやっと俺ら時間できましてん。・・あ。あんまないか。へッ。


でもこれまでの分あんたらの供養したるさかい、・・勘忍な」


そうぶつぶつ言いながら苔むした小さい墓に焼酎を振りかけているのは大筒士の飛鷹だった。


「阿呆かお前!掃除する前に墓に酒かけてどないすんねんな!しかもそれ焼酎やないか!」


「あれ、ホクトはんも来とったんですか」


「今来たとこや。・・まさかお前に先越されるとは思いもせんかったわ」


そう言ってホクトと呼ばれた赤髪の剣士は苦笑いした。


「ま、同じ一族のオトコなんやから考えるコトは大体一緒ってことでっしゃろ」


「何やそれ・・まぁええ。これから墓の掃除やるで。飛鷹、お前ちょい手伝え」


「えー。むっちゃコケっぽいですやんこの墓。ホクトはんやってぇな。俺嫌やわ」


「何や!先に『供養したる』ち言うたんはお前やろが!阿呆」


そうしてきっかわ家の大の男二人は上方漫才の様な会話をしながら何十年か分の墓掃除を始めた。



しばし時間が経ち、ホクトは大分見てくれがまともになった墓石の前で手を合わせた。


「・・飛鷹、お前はどないするつもりなんや」


「はん?何がでっか?」


「とぼけんでもええやろ。アレや。解放のナンとかの儀ちゅー・・」


「ああん、アレでっか。俺、産まれかわれようが子供作れようが、納豆。アレだけは絶対食えへん思いますねん」


「・・はァ!?」


「あんなん人間の食いモンちゃいますわ。あぁもー思い出すだけで。オエ」


「何ボケとんねん!・・コイツしゃあないわもう」


飛鷹はすかさず聞き返した。


「そう言うホクトはんはどうされますねんな」


ホクトは急に小声になった。


「・・・分からへん」


「なんや!年配の方から先に答えるちゅうもんが筋でっしゃろ!毎度いけずやなーホクトはん」


「やかましわ!・・どっちやのうて儀を『する』か『せん』かで迷うとるんや!・・あぎらがおるやないか」


それを聞いて飛鷹は真顔になった。


「・・実は俺もおんなじの事で引っかかったっとったですわ。あぎらはん、もう一歳六ヶ月ですやろ。


・・あんま言いたないけど、もう長う持たれん思いますねん」


「せや。・・俺かて一歳五ヶ月でギリギリやで。・・はっきり言ってあぎらに解剖のナントカは無理や」


「ホクトはん。『解放の儀』ですよって。別にええけど。・・そいえばあぎらはん、最近妙に食細うなってきはったわ・・」


二人は一瞬下を向いて黙りこんでしまった。それからホクトが暫くして重い口を開いた。


「・・イツ花の前じゃあんま言われへんけど、俺、もちっと早うその儀の事教えて欲しかったて思うねん」


「俺も考え同じやわ。神さんもいきなり言われはったし・・。


朱点倒した仲間の一人が『解放の儀』でけへんやったら皆できる訳あらへんやん。


俺らだけ儀やらしてもろたらあぎらはんが不憫や。神さんも最初からワザとそれ狙うてたんちゃいますん?」


「ワザと狙う、・・か。せやったら俺ら、神さんに弄ばれてんねんな・・。へッ」


ホクトは又嬉しくない苦笑いをした。


「神さんも殺生やわ。そんなんやったら、なんも教えてもらわんかった方が俺ら倖せやったかもしれへん」


飛鷹はそう言ってまた墓石の前で合掌した。


「せやな。・・もうええ。なんも知らんかったことにするんが一番ええんや。飛鷹、俺は帰るで」


そう言ってホクトは墓に背を向けてとっとと歩き出した。


「何や・・。寄り道も何もせぇへんのでっか。つまらん。ま、ええわ。俺だけでも買いもんして帰るさかい。


ご先祖はん。へへ。実は今日、冬仕様の美人画が限定で入荷する言われとるんです。急がんと売り切れますよって。


俺もこれで失礼しますわ。ほな」


その飛鷹のだべりを耳に入れたホクトは一瞬立ち止まり、又元来た道を戻って来た。


「あっれ、ホクトはん。さっき『帰る』言うとりましたやん。心変りでっか?」


「やかましわ!お前が刺激の強過ぎるモンを買わんように俺が見張ったるんや。感謝せえ」


「へえ。それはわざわざ御苦労さんですホクト様。感謝感謝」


・・その色好みの男共は顔を見合わせ含み笑いをした。

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