
| 一 |
決勝戦、吉川一族対頼光一党。
頼光一党。数年前まで御前試合を総ナメにし「天下無敵」と呼ばれた剣士・拳法家・大筒士の3人組。
しかし何十年にも渡り一族を鍛え上げてきたきっかわ一族にとっては
もはや彼らでさえ、悪く言えば「ザコ」に過ぎなかった。
残る敵は砲撃をすんでのところでかわした拳法家の甲のみであった。
おまけに甲は深手を負ってしまい立つ事すら出来なかった。
頼光一党の甲は朦朧とした意識の中で思った。
―もう、やられる。―
しかし甲が下を向いて覚悟をしていたにもかかわらず、一向に自分に刃が向かってくる気配がなかった。
おかしい、と思って見上げてみると、自分の目の前に敵である薙刀士の娘が目線を合わせて座っていた。
「お兄さん、もう十分やろ。棄権し。・・・ね?」
それを聞いて一番驚いたのは自分だった。
「な、なに言うてんねんお前!自分、これでも未練がましゅうしたないんや!早うトドメさしたらええやろ!!」
凛とした薙刀士の娘ははっきりと首を横に振った。
「ううん。うちら、そんな戦いする為にここにおるんやないねん。それよかお兄さん、その腕の怪我。
はよ手当てせんと元みたいに曲がらんようになるえ」
「腕!?腕なんかどうでもええ!自分、元々この試合で拳法家引退するつもりやってん!かまへんわ!やれ!」
「全然かまへんことあらへん。・・悲しこと言わんといて」
「・・・何でや」
娘は微笑って言った。
「・・だって、お兄さんにはまだ先があるやん。・・大丈夫。失敗したって
時間がある限り何度でもやり直せる。うちが保証する。せやさかい、もっと自分のこと大事にして。ね?」
拳法家頼光甲は唖然として娘を見た。
「お前・・一体何者やねん」
「タダの薙刀士や。・・ええねお兄さん。棄権するよ」
「お、おい!」
「審判はん!この試合はもう終わりや!このヒト早うお医者に見せたって!はよせんと腕、アカンようになりますえ」
その薙刀士の娘の声を聞き、急患用に待機していた侍医達が大急ぎで駆け付けて来た。
決勝戦、棄権中断。
やって来た担架に乗せられながら拳法家甲は娘に尋ねた。
「あんた・・・名前何て言うねんな」
「あぎらいいます。」
「あぎらはん。自分、もう一度あんたらと勝負したい思いますねん。夏、夏の試合必ず出るよって。待っとってくれ」
「へえ。でもうちら、この試合で最後にしたい思っとるんです。夏はお兄さん達が優勝してくんなはれ」
「・・へ。な、何でや!お、お医者様!待って!ちょっと運ぶの待ってぇな!自分、もっとあのヒトと話したいねん!ちょっと!」
拳法家甲はそう叫びながら慌ただしく担架で運ばれて行った。
「あぎらはん、これが最後の試合よって。ほんまにこれで良かったんか?・・・俺等はかまへんけど」
「・・ええんよ」
あぎらは後ろを振り返って笑顔を見せた。
桜が徐々に咲き始めた春のことであった。